「ヨナオシフォーラム2020」(代表世話人:金子勝)は、小林慶一郎氏、藻谷浩介氏をスピーカーに迎え、下記のとおり、第5回 集会を開催しました。

第5回会合では、国の分科会委員も務める小林慶一郎東京財団政策研究所研究主幹と藻谷浩介㈱日本総合研究所主席研究員のお二人から、「徹底的な検査による地域からの経済再生」をテーマにお話しいただき、議論を深めました。

開催概要

日時:2020年8月19日(水) 14:00 〜 15:30
会場:衆議院第2議員会館 第7会議室および Zoom
主催:ヨナオシフォーラム2020(代表世話人: 金子勝)

講演:

「コロナ感染症の積極的感染防止戦略」

小林慶一郎 / 東京財団政策研究所研究主幹、国の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員

新型コロナウイルス感染症との闘いは長期化し、行動自粛と経済再開の繰り返しでは、経済社会が持続可能ではない。感染症検査を拡充し、幅広い接触者の行動調査で感染者を早期発見し、待機療養施設に囲い込む積極的な感染防止の政策対応が求められる。こうした政策実現に向けた現状と課題を論じる。

略歴

東京大学大学院工学修士、シカゴ大学経済学博士。経済産業省、経済産業研究所、一橋大学経済研究所を経て、2013年から慶應義塾大学経済学部教授。兼職:慶應義塾大学経済学部客員教授、経済産業研究所ファカルティーフェロー、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

著作等
『財政破綻後―― 危機のシナリオ分析』共著(日本経済新聞出版社、2018)、『財政と民主主義――ポピュリズムは債務危機への道か』共著(日本経済新聞出版社、2017)、『ROE最貧国日本を変える』共著(日本経済新聞出版社、2014)、『ジャパン・クライシス』共著(筑摩書房、2014)、『日本破綻を防ぐ2つのプラン』共著(日経プレミアシリーズ、2011)、『日本経済の罠』加藤上席研究員との共著(日本経済新聞社、2001、2009。第44回日経・経済図書文化賞、第1回大佛次郎論壇賞奨励賞)

小林慶一郎

東京財団政策研究所研究主幹、国の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員

講演:

「ウィズコロナ時代の地方再生」

藻谷浩介 / 日本総合研究所 主席研究員

政府お仕着せの「地方創生」では、うまく行かない。霞が関で常識とされていることには、実は科学的根拠が全くなく、それどころか誤った事実認識に基づいていることが多いからだ。全ての地域には固有の状況があり、一般論は通用しない。地方再生に「魔法の杖」などない。しかし、現場に行けば必ずヒントは見つかる。平成合併前3,200市町村のすべて 、海外114ヶ国に自ら足を運び、自分の目と耳で確かめ、考え、見出した法則の一端を紹介するとともに、新型コロナ禍で、地方が新たな社会への大転換の主導者となる可能性が開けてきたことを示してみたい。

略歴

(株 )日本総合研究所 主席研究員 会社に席のない単年度更新年俸制社員・現職
(株) 日本 政策投資銀行 地域 企画部 特任顧問 非常勤など

1964年6月18日生まれ(56歳)山口県 出身
1988年 東京大学法学部卒
1994年 米国コロンビア大学経営大学院卒業(経営学修士 =MBA)

平成合併前3,200市町村のすべて、海外114ヶ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し、精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。 著書に『デフレ の正体』『里山資本主義』(KADOKAWA)、『しなやかな日本列島のつくりかた』『観光立国の正体』(新潮社)など。近著に『世界まちかど地政学 Next』(文藝春秋) 。

藻谷浩介

日本総合研究所 主席研究員

まとめ

  • コロナウィルスに対する人々の行動制限は時間稼ぎで、感染防止と経済拡大を合わせた「積極的な感染防止策」が必要
  • 必要な政策は、(1)医療の収容上限の拡大、(2)重症化防止、(3)感染拡大抑制
  • これを実現するには、11月末までに20万件/日の検査体制が必要
  • 日本でのコロナウィルスでの死亡率は世界平均より低い。世界的に死亡率は低下傾向(70歳以上を除く)。100万人単位で言うとインフルエンザのほうが死亡率は高い。
  • 日本での感染者数は地域により大きく異なる。海外からの観光客は無関係で人口密度との相関が高い。必要な方策について政治家がきちんと説明をすべき。
  • コロナ後に就業者の2%が東京を離れると予想され、これを受け入れる地域・企業にメリットが生じる。

小林慶一郎氏 講演要旨

  • コロナウィルスに対する行動制限:単なる時間稼ぎで解除すると再び感染拡大が生じる。このStop & Goを繰り返すと経済が低下する。多くの企業は3~6か月の余裕しかないため現時点で手元の資金がなくなっており再度緊急事態宣言をすると大量倒産・大量失業が生じる。
  • 積極的な感染防止策:感染防止と経済発展を両立させる必要がある。それには検査拡大と感染者の隔離が必要。行動制限を2年間続けると、GDPで10%、100兆円の損失が生じるが、この積極的な感染防止であれば2兆円程度(最大でも4兆円:2,000万円で10万人対応との計算)で必要なシステムを構築できる。
  • 政策のイメージ:下記が必要
    (1)医療の収容上限の拡大
    (2)重症化防止:医療機関へのアクセスの改善
    (3)感染拡大抑制:クラスターへの早期対処で、カテゴリー分けで行う。
    カテゴリー1(有症者+接触者(症状なくても))、カテゴリー2(医療・介護・障碍者施設従事者、新規入院の検査、夜の街関連、水際対策(海外からの入出国)、)、カテゴリー3(ビジネス(出張など)、スポーツ)
  • 検査の数値目標:これがないとロジスティックなどの対策が立てられない
    インフルエンザの蔓延期間(1週間程度)では10~30万件/日
    新規入院者への検査では5万件/日
    水際対策では7~14万件/日(オリンピック2Wで100万人が入出国として)
  • 検査の時間軸:9月末までに10万件/日、11月末までに20万件/日
    厚生省の8/7付けWebに必要件数は全国で6万件/日あり現時点で目標達成(PCR5.2万件、抗原検査2.6万件)としているが、これでは水際対策ができない。
  • 懸念に対する反論
    偽陰性:検査を減らすと見逃しが増える
    偽陽性:複数回の検査が必要になるが、感染拡大によるコスト増との比較で考えるべき
    検査拡大と医療崩壊:欧米で医療崩壊が生じたのは感染者拡大による。検査は不足していた。軽症者と無症状者はホテル使用により、医療の負担は減っているはず。
    事前確率:症状で検査するかどうか決めるのであれば無症状者は検査無しとなる。
    国民の不安:市中での感染が高いと思うのが問題で、検査増により正確な情報を伝達できる。

藻谷浩介氏 講演要旨

  • コロナウィルスでの死亡率:日本の死亡率は世界的に低い(100万人単位で見ると、スウェーデン572人、米国518人、ドイツ112人、豪州18人、日本9人、韓国6人、シンガポール5人、中国3人、台湾3人)。死亡率自体は低下傾向にあるが70歳以上ではあまり下がっていない。死亡率の低下は世界的な傾向である。日本でのインフルエンザの死亡率は100万人当たり27人、ノロウィルスでは20人なので、コロナウィルスの死亡率は高くない。
  • コロナウィルスの感染者数:国内での感染者数は地域差が大きく人口密度との相関が高い。これは感染症の理論通りで密集するほど天災に弱い。海外からの旅行者の影響を見るとほとんど関係ないことが分かる(2月に中国旅行者が多数した地域での感染者数は多くない、旅行者は国内での濃厚接触が少ない)。関係しているのは、欧米からの帰国感染者(都心に集中)、人口密度、接触型飲食業集積の大小、米軍(沖縄)である。
  • 必要だったと思われる対策:地域の実情に応じた対応(全国一律の規制は不要だった)、信頼できる政治家による説明での住民の不安の緩和(TVワイドショーで煽られることの解消)、地域ごとの対応に伴う責任の明確化(地方分権)。
  • コロナ以外での地域差
    女性の就業率と出生率:就業率が高いため出生率が下がるという人がいるが、そのようなことはなく、地域差が大きい。就業して収入が増え生活が安定するため出生率が増えることもある。地域に合わせた対策を考えるべき。
    生活保護率:これも地域差が大きい(東京、大阪、福岡などが高い)。
  • コロナ後について:在宅勤務には通勤時間無しなどメリットがあるため、コロナ後に多くの会社が通常の勤務体系に戻ったときに2%程度(7万人くらい)が従来の東京通勤を辞めると思われる(転職など20%が検討しそのうち10%が実際に動くと想定)。この移動を受け入れる地域と企業にはチャンスとなる。
  • 世界的には、野心のある若者は、ネットを利用し各自が別々の場所にいる形態のスタートアップに流れている(オフィスではなくサードプレイスが求められる)。

質疑応答

政府の政策変更が必要だが、検査数が少なかったのはなぜか?

検査が少なかった原因は、日本の昔からの特性で、大きな変化にはブレーキがかかり、企業でも意思決定が遅いことがある。これには政治のリーダーシップが必要。

経済のV字回復は難しいが、落ち込みを和らげる方法あるか?

マイナスを和らげるには、行動調整が必要で、今のビジネスを続けるために資源を使うのではなくビジネス転換を支援する方向に政策を変える必要がある。GDPについては、日本企業の内部留保で6月までもったが今後倒産が増えるので定量分析が必要。

講師は野党の経済政策に対してどう思うか?

コロナが収まれば持続的財政に戻る必要がある。コロナはグローバルなので、各国協力含めた提案が必要で今後の課題。野党には、次の世代に向けて(消費税含め)持続性ある政策を提案してほしい。

野党は思ったことを言えるが結果としてバラバラになる。公開での議論を行ってまとめたもので主張するのがいい。

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