「ヨナオシフォーラム2020」(代表世話人:金子勝)は、金井利之氏、古賀茂明氏をスピーカーに迎え、下記のとおり、第9回 集会を開催いたします。
第9回集会では、「菅政権の施策をどう見るか」をテーマとします。安倍前政権の「レガシー」である「節度を失った政治」と「忖度が行き過ぎた官僚」の問題は、直近の日本学術会議会員人事にも見られるように、科学技術にも行き過ぎた忖度を求める方向に、増幅されています。これらを見据え、あらためて官僚と政治の関係、政治行政と知識・技術の関係を議論し、本来あるべき政治行政改革の方向性を探ります。
開催概要
日時:2020年10月23日(金) 10:30 〜 12:00
会場:衆議院第2議員会館 第6会議室および Zoom
主催:ヨナオシフォーラム2020(代表世話人: 金子勝)
講演:
「菅政権の施策をどう見るか~あらためて民衆と官僚と政治の関係を考える」
金井利之 / 東京大学大学院法学政治学研究科 教授
略歴
1967年生まれ。89年東京大法学部卒業、東京都立大助教授を経て現職。専門は自治体行政学。著書に『自治制度』(東京大学出版会)、『実践自治体行政学』(第一法規株式会社)、『原発と自治体――「核害」とどう向き合うか』(岩波書店)、共著に『地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか』(筑摩書房)、編著に『分権改革の動態』(東京大学出版会)『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社)など。

金井利之
講演:
「内閣人事局の本来の意図、官邸官僚問題、失敗が予見されるデジタル庁(仮題)」
古賀茂明 / 当フォーラム世話人、フォーラム4主宰者
略歴
1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など。

古賀茂明
コメント:
「日本学術会議会員人事問題について」
大沢真理 / 当フォーラム世話人、日本学術会議連携会員・第22期第一部副部長
略歴
東京大学名誉教授。専門は社会政策。日本学術会議会員。経済学博士。群馬県出身。著書に『生活保障のガバナンス:ジェンダーとお金の流れで読み解く』(岩波書店)、『現代日本の生活保障システム: 座標とゆくえ』(岩波書店)、『男女共同参画社会をつくる』(NHK出版)など。

大沢真理
まとめ
- 昨今の問題は構造的なもの。国民の意思が内閣の意思と一致することを求め、多様性を認めない。内閣機能が強化され暴走した。
- 地方分権の徹底、国会の改革、「法の支配」の拡充発展、司法改革、省庁間のバランスの確保が必要。
- 今後、日本の人口減少と移民増加による多様性回復、世界での覇権の交代(米国→中国)など課題多い。
- 公務員の3つの型:「消防士型(リスク負っても努力する)」「中央エリート官僚型(上から目線、天下り当然)」「凡人型(リスク取らない)」
- 天下りにより忖度が強化
- 内閣による官僚人事は、2008年の「国家公務員制度改革基本法」に端を発し、2014年に発足し、総理が人事権をもつ「内閣人事局」はその象徴。
- デジタル庁は、省ではないので大臣が人事権をもたず、出向者の寄り合いになり、結果として雑用をとりまとめるようなものになってしまうだろう
講演要旨
菅政権の施策をどう見るか / 金井利之
- 行政改革:「我々国民が統治の主体として自らその責任を負う」ことを明らかにする。国の本質は変えずに行政を変えることで他をコントロールする。内閣がすべてをコントロールする(内閣府の強化、内閣は科学も管理)。国民の意思と内閣の意思が一致することを目指す(国民の多様性を認めない)。90年代の行政改革会議最終報告の内容が基本。
- 内閣による支配(重要政策会議による支配):経済財政諮問会議(経済財政の支配)、総合科学技術・イノベーション会議(科学技術の統制)、国家戦略特別区域慰問会議(自治体・地域への選別)、中央防災会議(非常時での国民・社会全体の統制)、男女共同参画会議(内閣による女性支配)
- 内閣の暴走:国会(開催)、裁判所(最高裁判事の任命)、各省庁(人事)、報道機関、財界・企業(経済財政諮問会議による国策介入)、自治体、学界(学術会議)、教育、自衛隊、皇室
- 失われた戦後レジーム:世紀転換期諸改革は「国のかたち」を毀損。戦後日本のナショナリズムは、異常な主体性と国家=国民の同一化。万年野党・企業内組合・主婦の意義は、統治者目線を持たず人権・権利の要求の自律性の確保。憲法学は被治者の人権学で国民=主権者の統治学ではない。
- 処方箋:内閣の強化は、権力分立ないし抑制・均衡のシステムに対する適正な配慮を伴う必要。(国民の意思の)多様性を保つこと。
- 21世紀の解毒プロジェクト:為政者と意思を同じくしない民衆の中の多様性の保障。今後は、日本人の人口減少、移民増加による多民族化、世界での覇権交代(米国→中国)など課題多い
内閣人事局の本来の意図、官邸官僚問題、失敗が予見されるデジタル庁 / 古賀茂明
- 優秀な官僚:幹部官僚は省にとって優秀。忖度する/しないの影響は退職後の天下りまで続く。
- 官邸官僚の権力増大:安倍政権は“崇高な理念”のための政治でハイブリッド官邸主導、菅政権は“理念なき政治”で完全官邸主導(官邸官僚が重要というと重要になる)。
- 公文書:(官僚から見ると)国民の財産ではなく官僚の貴重な文書でかつ危険物。
- DX省の提案:民間9割、外国人の幹部登用、全ポスト公募義務化、忖度しない官僚の誕生を目指す。
日本学術会議会員人事問題について / 大沢真理
- 人事介入:軍備防衛装備に対する安全保障の研究に関して、2017年に学術会議が出した声明が関係したと言われるが、年代を考えると、高レベル放射能廃棄物の処分に対しての回答と提言が影響している(政府に不都合とみられた)。
- 科学技術基本法改正:人文社会科学を含めることで忖度する学者をという機運高まった。
質疑応答
民主党の時にも公務員公募を検討したが、公募になっていたらどのような変化があっただろうか?
公募の方法によって異なる。応募者に対してオープンな公聴会などを多数行うのがいい。
菅首相が作った成長戦略会議は何を目指したものだろうか?
成長戦略会議は、考えが近い人だけを集めて、意思を貫徹したいのだろうと想像する。
IT・デジタル政策ついて、どう考える?
グリーンニューディールとDXは2本柱で両方やる必要ある。データを一元的に内閣が管理するのは危険で、どのように使うのかが問題。
内閣と違う意見が押しつぶされて出てこない。なぜそうなっていて、なぜ国民はそれを許しているのだろうか?
公文書に関して、官僚は全部非公開にしたく必要なものは個人メモにするため、関係する法律を全面的に変更する必要がある。
学術会議への介入に関して、補足あるか?
教員養成と人文科学系の学部・大学院に対し、廃止または社会的要請の高いものへの転換を呼びかける文科大臣通知(2015年6月)が出された際に、学術会議からの批判があり、これにより通知が事実上撤回されたことをきっかけに、学術会議への介入の流れが変化したと感じる。